▪セオリーなきモチベーション
モチベーションについては現在いろいろな組織や場面で論じられるようになりましたが、残念ながら包括的で一貫したモチベーション・セオリーを世の中に見出すことは難しいように思います。
もちろん、よい理論や考えはあります。しかし、それらはモチベーションの一部を表すものの、モチベーション全体を表すものではないのです。パズルのピースはあるものの、パズルの絵全体を表すものではないのです。
さらに、モチベーションの実践となると、いろいろな組織でバラバラなアプローチがされています。皆さんは、モチベーションがうまく機能している組織を見たことがありますか。なかなかそのような組織を見つけることができないのではないでしょうか。
▪働く人のモチベーションの問題と自由の喪失
世界的調査会社であるギャラップ社は日本の社員について次のような調査結果を報告しています。
【日本の社員のモチベーションの現状】
⑴日本で熱意にあふれる社員の割合は6%である。
⑵日本でやる気のない社員の割合は70%である。
⑶日本の社員のやる気は139カ国中132位である。(ほぼ最下位レベル)
これらの結果を見ると日本の将来が大変危ぶまれます。これらの結果を一言で言うならば、モチベーションの不足です。
私が社員として働いていた頃、社内を見回しても、残念ながら熱意ある社員を見出すことがなかなかできませんでした。それは末端の社員に限らず、部長や役員や社長といった管理職や経営者なども同じで、あらゆる階層の人々にやる気を見出すことが難しかったのです。
もちろん、楽しく仕事をしている人はいましたし、残業して仕事を頑張っている人もいました。しかし、多くの社員が何らか外から統制されて仕事をしている感が強かったのです。例えば、社員であったら上司などから統制され、社長であれば株主などから統制されていました。
それらの状況を見ると、人のモチベーションを解き放つには、その人に主体性や自律性そして自由がなくてはいけないのだと思いました。
では、誰かに統制されて働く社員ではなく、独立して事業を行う起業家であったら、強いモチベーションを持って働くことができるのでしょうか。
それについても必ずしもそうとは言えません。
自由を求めて起業した人々は上司や会社制度などからは自由になれても、財政的に苦しくなり、不安により自由を失ってしまうことがあるからです。つまり経済的に不自由に陥るということです。
起業したベンチャー企業の10年後の生存率は6.3%であるということも日経ビジネスの記事で報告されています。つまり、起業家の90%以上が企業して10年経つと経済的不自由に陥ってしまうのです。
すると、大きな不安を感じ、それによってモチベーションが阻害されてしまうのです。場合によっては抑うつにより体調を崩すこともあるのです。
さて、人がモチベーションを感じるためには、自由が必要であるということを説明しました。
自由については以前に別の記事でもお話ししましたが、人がモチベーションを得て働くには次の2つの自由が必要であるということです。
【人のモチベーションを高めるために必要な2つの自由】
①外的な自由…権限や資金や機会などの外形的な自由
②内的な自由…知識や能力や価値観といったその人の中に存在する自由
▪モチベーションはただ上げればよいのか?
また、モチベーションについての議論が迷走しがちなもう一つの理由は、その論点に問題があるからだと思います。多くの組織ではモチベーションについて論じるときに、「どのようにしたらモチベーションを上げられるか?」という論点で議論します。
つまり、モチベーションが高いか低いかというモチベーションの量を論点にすることが多いのです。しかし、そのモチベーションがどのようなものか、どこに向かっているのかという質についての論点はほとんどされていません。
モチベーションをどうやって上げるかという声はあちらこちらで聞かれますが、モチベーションをどのように正すかというその方向性の議論はされていないのです。
しかし、モチベーションとはベクトルであり、大きさと同時に方向性が重要です。またその方向性がモチベーションの大きさに影響を与えます。モチベーションには量のみならず質の議論が欠かせないのです。
例えば、犯罪者や悪人のモチベーションが高ければ犯罪が増え社会にとって大きな問題となります。モチベーションがどこに向かっているかということは、それが高いか低いかということ以上に重要なことなのです。それであるから、モチベーションは闇雲に高めればよいというものではないのです。
▪モチベーションについての正しいアプローチとは
モチベーションが迷走する理由について説明してきましたが、今回ご紹介したことをまとめると次の2つとなります。
【モチベーションが迷走する理由】
①人を自由にすることができていないため
②モチベーションの方向性の論点が欠けているため
これら2つを解決するアプローチとしては、
働く人に向かうべき正しい方向性を明らかにし、その人に自由を与え、その方向にその人が自ら向うように助けて上げるということです。
人を正しく動機付けるために人に向かわせるべき方向とは、近年すでに心理学や神経科学が明らかにしています。問題は企業や経営者がその方向性を示しきれていないことであり、そこに人々を導いていないということです。または、人をときにそこに導こうとしますが、別のときには全く違う方向に誘おうとしているのです。これでは正しいモチベーションは育ちません。人の心に灯をともすと同時に水をかけてしまっているからです。
人のモチベーションを高めるには、人の向かうべき方向すなわち真の目的を示し、それを人が自ら深く理解するよう助けて上げることが大切なのです。
それについては、またの機会にゆっくりお話ししましょう。