PDCAの限界

目次

◈PDCAは使えない?

皆さんはPDCAを仕事で用いることがありますか。私が以前働いていた会社では、やたらとPDCAを多用していたように思います。今日はPDCAを用いるときの注意点についてお話ししたいと思います。

PDCAについては既にご存じの方もおられるかと思いますが、簡単に説明しますと、

PDCAとはアメリカの統計学者ウィリアム・エドワーズ・デミングが1950年代に提唱した改善のためのツールで、次のような4つの段階を順に繰り返し、物事を改善していくというものです。

lan(計画する)→o(実行する)→heck(評価する)→ct(改善する)

これらプロセスの各段階の頭文字を取ってPDCAと言うわけです。このPDCAはP→D→C→Aというプロセスを1回だけでなく、P→D→C→A→P→D→C→A→…というように何度も繰り返すことでPDCAのサイクルを回し継続的に改善しスパイラル・アップしていくというものです。

ただ最近、「PDCAが古い」とか、「PDCAは使えない」という声をよく聞きます。

さて、PDCAは時代遅れの使えないツールなのでしょうか。

◈PDCAが使えない場面

PDCAが使えないという声が多く聞かれるのも、現にPDCAが機能していないことがあるからだと思います。私自身もPDCAがうまく回っていない場面を幾度となく見てきました。PDCAは万能薬ではないのです。

では、PDCAはどのような場面で使えて、どのような場面では使えないのでしょうか。

それについて答えるために、PDCAの機能をもう少し理解する必要があります。

PDCAはそもそも現状を起点として改善を積み上げていくツールです。ですから、まず現状を把握し改善を計画(Plan)し、それを実行(Do)した後にうまくいったかどうか評価(Check)し、うまくいかなかったら改善(Act)を加えるということです。

このようにPDCAは現状からの積み上げですから、自ずとこれまでの延長線上に向かうことになります。すると現状に対し抜本的で飛躍的な改革を起こすことは難しいということになります。つまり、限定的改善はできても、イノベーションは望めないということです。

PDCAは論理思考に基づく改善のアプローチですが、水平思考が求められるイノベーションにはマッチしないのです。

以前の記事で、会社の仕事には「ルーティン」と「イノベーション」の2つがあることをお話ししました。

ルーティンとは、同じことを安定的に繰り返し、同じものを生み出し続ける機能であり、一方イノベーションとは新しい価値ある成果を生み出す機能です。

PDCAとはイノベーションではなくルーティンに用いられるツールなのです。ですから、次図のようにPDCAサイクルはルーティンの対数曲線を上ることはできても、イノベーションの指数曲線を上ることはできないのです。当然、ルーティンの成果は図の曲線のように頭打ちとなります。よく工場などで改善活動を続けていくと絞り切った雑巾のように、それ以上コストメリットなどの成果が得られなくなってしまうことがありますが、それがルーティンの頭打ちです。しかし、ルーティンにおける改善とはそういうものですからしょうがないのです。つまり、PDCAのサイクルを回して天井なくスパイラルアップしていくことはできないのです。多くの人が持っているPDCAサイクルのスパイラルアップのイメージは誤りで、どこかで天井にぶつかってしまうのです。

それを理解すると、PDCAが、品質管理(ISO9001など)や環境管理(ISO14001など)などに用いられることも理解できます。それらは基本的に「不良ゼロ」「法違反ゼロ」といった定まったゴールに向かうことを主目的としていますので、まさに対数曲線のような頭打ちのルーティン曲線なのです。

しかし、イノベーションは現状の改善だけでは生まれません。むしろ、現状を否定したり、既存のものを破壊することで生まれますので、PDCAはイノベーションに対応しないのです。ちょうど次図のイメージにあるように、PDCAはイノベーションの指数曲線を上ることができないということです。

◈PDCAをどのように用いるのか?

では、どのようにPDCAを用いるのでしょうか。それは、これまでの話からお分かり頂けたように、PDCAをイノベーションではなくルーティンに用いるということです。PDCAをルーティンに限定して用いるのであればPDCAは有効に機能することができるのです。

PDCAはルーティンに用い、イノベーションには用いないということですが、それならばPDCAはイノベイティブなベンチャー企業などには不要かと言うと決してそうではありません。イノベイティブなビジネスであっても、それがビジネスであれば必ずルーティンのような決まったことを安定的に繰り返す業務が存在します。例えば、ベンチャー企業であっても、経理や労務管理などのルーティン業務は存在します。ベンチャー企業であってもPDCAをそれらのルーティン業務の改善ツールとして用いることはできるのです。

◈イノベーションのためのツールは?

PDCAとはイノベーションではなく、ルーティンに用いるためのツールであるということですが、イノベーションに用いることができるツールはあるのでしょうか。

残念ながらイノベーションに用いるための定式化された有効なツールはまだ見出されていません。

ここでは詳しく述べませんが、PDCAに代わるツールとして、OODA、STPDなども提唱されていますが、それらがイノベーションに用いる有効なツールかというと必ずしもそうではないように思います。

イノベーションのメカニズムを示すためには、単に外形的な行動プロセスを並べるだけではなく、モチベーションや欲求といった人の内面を考慮に入れた新たなツールが必要です。これについては別の機会にしっかりとお話ししたいと思います。

ただ、PDCAはイノベーションでは使えないということをご理解頂ければと思います。

では、お元気で。