私はこれまで「大企業病」の恐ろしさについていろいろなところで語ってきましたが、
多くの人はこの病いの恐ろしさについてあまり理解していないようです。
まず大企業病と言って、それは大企業に限った病いではありません。
それは中小企業においても起こり得る病気であって、あらゆる組織に関わるリスクです。
そのような意味で大企業病という呼び名自体が適切でないのかもしれません。
いずれにしても、大企業病は恐ろしい病気であることを忘れてはいけません。
マクドナルド コーポレーションの創業者レイ・クロックは大企業病について次のような言葉を残しています。
「未熟でいるうちは成長できる。成熟した途端、腐敗が始まる」。
また、ウォルマートの創業者サム・ウォルトンも大企業病について次のような警鐘を鳴らしています。
「私たちにとって、小さく考えることは一種の生き方であり、ほとんど強迫観念になっている。また、この考え方は他の業種でも有益だと思う。会社が大規模になればなるほど、その必要性はますます切迫してくるだろう。現在のわが社ほどの規模になると、制度化や規格化を行って、中央集権的チェーン企業らしく運営しろという圧力が方々からかかってくる。そうしたシステムには創造性や、かつての私のような一匹狼的商人が入る余地も、また、起業家や商略屋が入る余地もない。私はそうした会社で働きたくはないし、ウォルマートがそうなることを毎日心配している。当然、サプライヤー(商品納入業者)はわが社がそうなれば喜ぶだろう。彼らの仕事が楽になるのは確かだからだ。もし、自分は「大企業病」に対する免疫があると思っている者がわが社にいるなら、即刻、荷物をまとめて去ってもらいたい。それこそ、私がいつも恐れていることだ」。
大企業病が恐ろしい理由の一つは、それがサイレント キラーであるということです。
大企業病は知らず知らずのうちに会社を侵し、その生命を奪ってしまいます。
会社において、経営者やマネジャーや社員は知らないうちに大企業病に感染し、意欲や創造性や起業家精神を失ってしまいます。そして、人々のメンタリティは権威主義、保身主義、形式主義、事なかれ主義に支配されてしまうのです。また組織形態や社内制度や企業文化は劣化し、気付いたときには、その会社は市場ニーズに応える機能や力を失い、業績は悪化し、買収されるか、合併するか、倒産するかといった憂き目を見ることになるのです。
これはとても悲劇的なことですが、これらが大企業病によって引き起こされているということは十分認識されていません。大企業病が十分認識されないのは、それがしっかりと定義されていないからです。かつて、PTSDやADHDなどといった心的疾患が定義されていなかったためそれらへの対処が遅れたように、大企業病もしっかりと定義されていないため適切に対処されていないのです。
この大企業病の別の呼び名として「官僚化」というものがありますが、この官僚化も適切な呼び名とは言い難いのかもしれません。なぜなら官僚化とは官僚に限ったものではないからです。
アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンはこの官僚主義の特徴を次のように挙げています。
【官僚主義の特徴】
・規則万能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・規則に無いことは出来ない。よくない規則でも盲従する
・責任回避・自己保身・・・・・・・・・・・責任を負うことを避け、自身の立場を守ろうとする
・秘密主義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・情報を開示したがらない。都合の悪い情報を隠蔽する
・画一的傾向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多様な考えや取組を退ける
・前例主義による保守的傾向・・・・・前例のないことは良いことであってもやらない
・権威主義的傾向・・・・・・・・・・・・・・・サービスの対象者に対する態度が横柄になる
・繁文縟礼・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・膨大な文書を作成し、書類の管理業務が膨れ上がる
・セクショナリズム・・・・・・・・・・・・・組織が縦割化し専門外の業務を避け、閉鎖的になる
このように官僚化の特徴や症状は挙げられてはいますが、官僚化を生みだす原因は語られていません。
病気の原因を明らかにしなければ、病いを治療することや予防することはできないでしょう。
アンダスタンディング・セオリーでは官僚化を生み出す原因である認知構造や欲求について明らかにしています。それが明確になれば対処することができるのです。
では、これについてはまたの機会にお話ししましょう。