人はコントロールすることを好み、コントロールされることを嫌う

目次

心が生み出すパラドックス

人の心は様々なパラドックスを生み出すことがあります。

これはどういうことかというと、人があることをしようとするときには、それに相反するような心理が働くということです。

そのため、人は本来だったらこれをすることがよいのに、実際にはそれに反したことをしてしまうのです。このような人の心が生み出す矛盾を理解しないと、他者を助けようとしてもうまくいきません。モチベーションをうまく機能させるには、人の心が生み出すパラドックスを理解する必要があります。会社におけるマネジメントや人材育成においても、家庭における子育てやよい関係づくりにおいても、このことを理解しておくことが大切です。

パラドックスを生み出す心の性質

パラドックスを生み出す人の心の性質を、1つ紹介したいと思います。それは次の通りです。

「人はコントロールすることを好み、コントロールされることを嫌う」

これは極めて重要な真理です。これを理解していないと人も組織もうまくマネジメントできません。

まず、最初に「人はコントロールすることを好む」ということです。

皆さんもきっと自身のことを振り返ってみれば分かると思います。例えば、皆さんが新しいパソコンなどを買ったときに、パソコンが思うように動かないと、イライラしたり、ガッカリしたりするのではないでしょうか。一方、パソコンをうまく使えて文書作成や動画編集などがサクサクできたりすると嬉しくなります。人は物事を思うようにコントロールできると嬉しくなるのです。

人は長い歴史の中で快適に暮らせるように周りの環境を変化させてきました。つまり、人は快適な環境を作るために周りにある物事をコントロールしてきたのです。現在に至るまで文明を発達させ科学技術を進歩させてきたのも、物事をコントロールし快適な環境や成果物を得たいという人の欲求があったからです。

ラトガーズ大学の神経学者マウリチオ・デルガードは実験により、人は自分自身で物事を選択できることがわかると報酬系と呼ばれる脳の領域が活性化することを報告しています。つまり、人は自ら選択しコントロールすること自体に喜びを感じるということです。

では次に「人はコントロールされることを嫌う」ということについてお話ししましょう。

これについても皆さんは自身の経験により容易に理解できると思います。もし学生さんであれば、先生や親から「勉強しなさい」と言われて勉強するのは苦痛であると思います。そう言われるとかえって学習意欲が下がることでしょう。また社員であれば、上司から命令されて仕事をするのは嫌なものでストレスを感じることでしょう。

「人が自由を制限された際に、それに抗おうとする性質」を心理的リアクタンスと呼びますが、これは1966年にアメリカの心理学者ジャック・ブレームによって示されたものです。

自己決定理論の提唱者である心理学者エドワード・デシは、彼の研究で人は外から動機付けられるよりも自分で自分を動機付ける方が、創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れていたと報告しています。一方、外的なプレッシャーにより服従させることは強い反抗への衝動を含む多様な否定的な結果が伴うとも報告しています。

つまり、人はコントロールされることを嫌うだけでなく、コントロールされると創造性や意欲なども失われてしまうということです。

これまでのお話から「人はコントロールすることを好み、コントロールされることを嫌う」ということがおわかり頂けたかと思います。

ただ少し考えてみて下さい。この心の性質は組織において大きな問題を生み出すということがお分かりになるでしょうか。

何でもよいので人の集まる組織について考えてみて下さい。それが会社でも、学校でも、家庭でも構いません。思いつく組織をイメージしたときに、そこにはコントロールしたい人間とコントロールされたくない人間が集まっているのです。どのようなことが起こるでしょうか。

それは2つの欲求の衝突です。コントロールしたいという欲求とコントロールされたくないという欲求がぶつかるのです。職場で強いストレスを感じると答えた労働者が60%ほどいるというアンケート結果が報告されていますが、そのことがよくわかります。

心が生み出すパラドックスを解消する。

では、どうしたらよいのでしょうか。

その答えは、まずこの2つの欲求についてよく理解する必要があります。この2つの欲求を理解した上で、自分の周りの物事はコントロールしてもよいが、人に対しては決してコントロールしてはいけないということを肝に命じる必要があります。

職場で働いていると、この2つの欲求が理解できていない人をよく見かけます。やたらと人に命令したり、プレッシャーをかけたりするのを見ることがあります。また「何とか彼にこれをさせたいのだがどうしたらいいだろうか」と相談を受けることもあります。そのような人は「他者に何かをさせよう」という強い思いに捕らわれており、そこに問題があります。

私は他の人に何かをしてもらいたいと思ったときには、そのような相手に何かをさせようとするのではなく、まず相談し、相手の気持ちや状況を聞きながら丁寧にお願いしてみるようにしています。そうすれば意外とうまく承諾してもらえることがあるからです。

「人はコントロールすることを好み、コントロールされることを嫌う」

このことを心に留めるだけで、より人とうまくやっていけると同時に、その人のやる気や創造性を引き出すことができるのです。