ルーティンだけでなくイノベーションを起こそう。

目次

ルーティンとイノベーションとは

会社には2つの機能が求められます。それは「ルーティン」と「イノベーション」です。

これら2つはどちらも大切な機能ですが、会社では2つがうまく機能していないケースやルーティンがイノベーションを損なってしまうケースがしばしば見られます。

では、ルーティンとイノベーションとはどのような機能でしょうか。まずそれについて説明したいと思います。

ルーティンとイノベーションを簡単に述べると次のようになります。

① ルーティン・・・・・・同じ業務を安定的に繰り返し、同じものを生み出す機能

➡ 低負荷で効率的に損失を抑えながら同じことを繰り返し、安定的に同様の成果を多数生み出し続けること。

(関連ワード:論理性、習慣化、標準化、規格化、垂直思考、アルゴリズム、自動化など)

② イノベーション・・新しい価値ある成果を生み出す機能

➡ これまでにないものを探したり試したり組み合わせたりし新しい価値ある成果を創造すること。

(関連ワード:創造性、起業家精神、新規開発、創出、水平思考など)

少し例を用いて説明すると、①ルーティンとは工場における製品の製造や店舗における商品・サービスの販売や提供、または役所における事務手続きのような繰り返し業務のことです。

一方、②イノベーションは今までにない新商品や新サービスや新事業を開発し生み出すことです。それは同じことの繰り返しではなく、クリエイティビティによって新しい変化を作る仕事です。

先にも述べたように、これら2つの機能はいずれも大切なものですが、会社において人はそれらを十分理解していないため、それらをうまく機能させることができず生産性や創造性を落としてしまうことがあります。よって、もう少し詳しく2つの機能について整理して理解をふかめたいと思います。

ルーティンとイノベーションの生み出す成果の違い

まず、ルーティンとイノベーションが違っている点はそれらが生み出すアウトプット(成果)です。

ルーティンのアウトプットは従来生み出してきたものと同じのものであり、ルーティンの機能はこれまで生み出し続けてきたものを同じプロセスで安定的・効率的に生み出し続けることです。ルーティンは新しいものを生み出すということはないため、社外の環境が変わらず、市場や顧客のニーズや競合他社の動きが変わらなければ、問題なく従来と同じアウトプットで会社は収益を上げることができます。しかし、社会や環境の変化が起こり、市場ニーズが変われば、これまでに売ってきた商品やサービスは陳腐化して売れなくなるため、イノベーションが必要となります。

イノベーションのアウトプットは新たな価値ある成果です。ルーティンは過去に生み出してきたものと同じ成果を生み出しますが、イノベーションとは過去にない新たなものを生み出すことです。

このようにルーティンとイノベーションのアウトプットは異なりますから、アウトプットを生み出すパターンも変わってきます。

ルーティンとイノベーションがアウトプットを生み出すパターン

ルーティンとイノベーションがアウトプットを生み出すパターンは異なっています。

まず、ルーティンがアウトプットを生み出すパターンは次のような形となります。

これはどれだけのリソースを投入(インプット)したときにどれだけの成果(アウトプット)がえられるかということを表したものです。

【①ルーティンがアウトプットを生む線図】

ルーティンとは前述のように同じアウトプットを決まったプロセスで生み出し続けることですから、最初は労力や資金など投入するインプットを増やすとアウトプットはすぐに大きくなります。しかし、しばらくするとその効果は失われ飽和してしまい、インプットをどれだけ増やしてもアウトプットが上がりづらくなります。つまり、ここに示すような対数曲線のような頭打ちの線図となります。

一方、イノベーションがアウトプットを生み出すパターンは次のようになります。

【①イノベーションがアウトプットを生む線図】

イノベーションは新たな価値あるものを探索し試し創造することですから、最初はうまくいかず結果が出ないかもしれませんが、ある時に新たな発見が得られたり、人々の認知が増したりすることで、いきなり成果が上がってきます。ちょうどこの線図にあるように指数曲線のような急激な立ち上がりを見せるというわけです。 ここで述べているインプットとは成果を得るために投入する事物のことです。たとえば人の労力であるとか、資金であるとか、時間であるとか言ったリソースのことです。

会社の成長と衰退の過程に見られる2つの線図

ルーティンとイノベーションの2つの線図は、会社が成長し衰退する過程でも見られます。

次の図は会社が成長し衰退する過程を表した線図です。

【会社の成長と衰退の過程を表す線図】

この図をご覧頂けると分かるかと思いますが、会社の創業期は新たな事業を立ち上げ、新たな商品やサービスを生み出し、それらの販売を開始します。しかし、最初はインプットの割に成果が十分得られない状況が続き、ある時それらの商品やサービスが売れ始め事業が急激に拡大し成長期を迎えます。まさにこれら創業期と成長期にイノベーションの線図が現れます。ちょうどこの線図の青線部分がそれに当たります。

続いて、ルーティン線図が現れます。これは赤線の曲線部に当たります。いわゆる会社の成熟期です。この時期は会社が生み出した商品やサービスを安定的にまた低コストで多数生産し提供するために製造プロセスやサービス内容を標準化したり、サプライチェーンを定型化するプロセスと言えます。

そしてその後に会社の衰退期がやって来て、やがて会社は終焉を迎えるというわけです。会社の衰退期や終焉がどうして起こるかということについてはいろいろありますが、1つは後発の企業が新たな商品やサービスを生み出すことで市場のニーズや需要を持って行かれることによって起こります。

この会社の成長と衰退のプロセスは、商品やサービスのライフサイクルと重なります。詳しくは1950年代にコロンビア大学のジョエル・ディーン教授の提唱したプロダクトライフサイクル理論に関する論文やフィリップ・コトラーとケビン・レーン・ケラー共著「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編」などを参考になさってみて下さい。

いずれにしても、このようにルーティンとイノベーションの2つの線図は、会社が成長し衰退する過程で見られるということです。

ルーティンがイノベーションを阻害するという問題

さて、これまでルーティンとイノベーションのアウトプットが異なり、またアウトプットを生み出すパターンも異なるということを説明してきました。これらの相違を理解するならば、2つのアウトプットを生み出すためのノウハウや仕組みもそれぞれ異なるということが想像できるかもしれません。

特にイノベーションをどのようにつくるかということはほとんど理論化されておらず、その手法は人に知られていません。経営学者クレイトン・クリステンセンはその著書「イノベーションのジレンマ」の中で既存の事業で市場シェアを占める大企業がなぜイノベーションを起こすことができないのかということについて論じています。そこには既存事業者の組織構造や制度や考え方に原因があることが指摘されています。

企業が創業期・成長期には出来ていたイノベーションが成熟期には出来なくなりルーティンの機能しか持たなくなるのはなぜでしょうか。私はそこには構造的な問題のみならず、経営層を含む社員のモチベーションや欲求が大きく関わっていると考えています。また、これは会社の問題だけでなく、日本における経済の低迷なども同じ原因によって起こっていると考えます。

この「会社の成長と衰退の過程を表す線図」の各時期において、社員の欲求やモチベーションがどのように変化しているかということを見極めることがイノベーションを起こす上で大切と思います。この欲求やモチベーションの変化についての議論は別の機会にゆっくりとしたいと思います。

ここでは、皆さんの組織でルーティンとイノベーションが共存できているか、ということについて考えてみてほしいと思います。もし、イノベーションの機能が失われていると思われるのであれば、欲求やモチベーションについてのソルリューションを見出し用いる必要があります。

イノベーションを起こさない会社に見られる傾向は、ルーティンに対する過剰な強化です。会社内にもはやイノベーションを起こす組織構造や企業風土は存在せず、起業家精神が失われてしまったときに、それらの会社が犯す過ちがルーティンによってイノベーションを作り出そうとすることです。

しかし、ルーティンの延長線上にイノベーションはないため、ルーティンの強化を続けてもイノベーションは生まれて来ません。そのような過ちに陥いてしまった会社は理念やビジョンでは、起業家精神や新商品の開発などのイノベーティブな言葉を掲げますが、それらを生み出す環境整備や施策はなされていないため一向にルーティンから抜け出すことができず、新商品や新サービスも生まれず、新事業などは夢のまた夢となってしまいます。

そしてやがてルーティンを堅実に続けることが会社にとって最も重要な仕事であると勘違いしてしまうのです。それはやがて保身主義や形式主義や事なかれ主義と言った官僚化すなわち大企業病の症状を生み出します。そのときには、単にイノベーションが起こせなくなるだけではなく、イノベーションを異質なものと考え、イノベーティブな考えや言動を取る人々を抑圧したりしてイノベーションに抵抗する風土や構造を作ってしまうのです。これがイノベーションのジレンマになるのです。

もしか、自社がルーティン強化に陥っているようであればかなり際どい状態にあると考えなければなりません。それはルーティンによるイノベーションの阻害が始まっているからです。それは衰退の始まりでもあるのです。

では、これらの問題のソリューションについてはまた後程お話ししましょう。